小説

海賊と闇オークション

 招待状を持っている者しか入れない店内で秘密裏に行われていたのは、出所や由来が不確かな怪しいものばかりが集められて出品される、いわゆる闇オークションだった。「どうやって手に入れたんだこれ」「タマルに作らせた」「なるほど偽造招待状」 持つべき…

焼山葛

 わしとお前は焼山葛 うらは切れても根は切れぬ 「だって山縣さんは焼山葛の歌もらったじゃん」 そう言った伊藤の目が座っている。飲み過ぎだ。あまりに突然の言葉だったので、山縣は直前の会話がなんだったのか忘れてしまった。 飲み足りない…

その罪の重さを誰も知らない

 国が滅びるとはどういうことなのか、と。少年は友に問いかけた。  太陽の子は答えた。世が乱れて人々は混乱するが、やがて元に戻る、と。 月の子は答えた。結果的に何も変わらない。為政者が変わるだけだ、と。 どちらも正解なのだろうが、過…

月のまわりで

「あ、」 薄暗い廊下で自分の顔を見るなり間抜けた声を上げた相手、ジェンバに、カヤルは表情を変えないまま不審げな視線だけを向けた。 そもそもこの男が王宮内に居座っていること自体が気に入らないのに、更にカヤルの神経を逆なでしてくるのはなぜなのか…

王と神父

「さすが元近衛兵団長、チェスもお強い」「いやぁそれほどでも……ありますかな」 古い教会の一室。二人の男が膝を突き合わせてゲームに興じている。外は、王都は嵐のように荒れ狂っているが、そんなことはまるで嘘のように教会の中は静寂に包まれていた。 …

町を出る日

「テイラー、話がある」 そう言って親友がテーブルに置いた、重そうな小袋からは金貨の擦れ合う音がした。「俺は王都に行く。お前はジェンバと彼女を連れて、隣国の村へ移ってくれ」「それは、あの子のためだな?」「言わなくたってわかるだろ」 そう言って…

天を睨み月に吠える

リンカネイベント無料配布の張遼と曹操。再録本収録。初出:2020.01.19、加筆:2020.04.31  人は業を背負う。 天の龍も、龍の子も関係ない。天下の才も関係ない。 この天の下に生れ落ち、生きることを、戦うことを決めた時…

海賊と人魚姫

 派手な爆発音は、遠くまでよく響いた。  吹き飛ばした船の一部であっただろう木材に捕まる形で、ぷかぷかと波打ち際に浮いている男の服を雑に掴んで力任せに引っ張る。寄せては返す波を蹴り上げながら陸地に向かい、浅瀬に乗り上げてからはその…

海賊と朝

 この船の航海士は腕がいい。 航海士の仕事はつまるところ、現在地の把握から始まる。自分たちの船は今、この大海原のどこに位置しているのか。近くに目立つ岬や灯台などがあればいいが、いつもそう都合が良いとは限らない。望遠鏡を覗いた遠い向こう側に何…

海賊と仮眠

 深い海の底から浮かび上がるように。意識が戻ってくるその瞬間に。 嫌な夢を見ていた気がする。懸命に泳いでいるのにいつまでも岸に辿り着けないような、焦りと不安がない交ぜになった、そんな夢だ。 内容なんて覚えてないし、筋の通ったストーリーなど最…

海賊と猫

 副船長は動物にモテる。どこの港町にも必ず多くいる猫たちからも、何故だか知らないがモテモテである。そしてその日、挨拶に来ていたのは一匹の黒猫だった。 ウィリーとドラコの二人で個人的な買い物を終えて、ちょっと買い忘れたものがあるから先に戻って…

海賊と酒場

 重い扉を押し開ければ、カランカランと小さなベルが店内に鳴り響く。 薄暗いカウンターのいつもの席に座ってそのまま黙っている眼帯姿の青年に、マスターはいつものグラスへいつもの酒を満たして差し出した。そして、隣の席にも同様に。 昔と何も変わらな…