この船の航海士は腕がいい。
航海士の仕事はつまるところ、現在地の把握から始まる。自分たちの船は今、この大海原のどこに位置しているのか。近くに目立つ岬や灯台などがあればいいが、いつもそう都合が良いとは限らない。望遠鏡を覗いた遠い向こう側に何かが見えればいい方で、悪天候に見舞われればそれすらも見えなくなってしまう。
エリック・ダーヴィッツは広げた海図に現在地を記すのがとても速かった。判断の速さ、計算の速さ、なによりも自分たちを導く目印を見つけるその速さを持っている。
船の現在地から目的地までの航路を決めるために、机に広げた海図と方位磁石をじっと見比べている航海士が視線を動かすたびに、右目のモノクルが朝の陽の光を反射して地図上に小さな円を描く。
その日に焼けた端正な横顔を眺めながら、「男前だなぁ」と呟いたのは副船長だった。
「今更かよ」
笑いながら、けれども顔を上げることはない。
そういうところなんだよなぁとドラコが笑えば、机の反対側からひょこりと船長が顔を出した。
「なぁなぁ俺は? 俺は?」
「ハイハイ、イケメン」
「イケメンイケメン」
「投げやり! もっとなんかあるだろー!?」
航海士と副船長による雑な答えに対して不服そうに声を上げる、その姿はまるで子供のようだ。黙っていれば悪くないのに、というか、戦闘中の彼はそれこそ見惚れるほどなのにと思いながらドラコは片手を口元に寄せて声を張った。
「よっ、ジョニーデップ!」
「むふー」
「それで満足するのかお前は」
苦笑しながら顔を上げたダーヴィッツが、甲板を走ってくる騒々しい足音に気が付いて眉をしかめながら丸めた海図を副船長へ渡す。
「ほら、船長が騒ぐからうるせぇのが来たぞ」
「俺はーーー!!????」
駆け寄ってきたブレグマンの額に、その勢いのまま手刀を落とす。いってぇ!と頭を抱えた相手を指さして、航海士は高らかに声を上げた。
「お前はオーパーツ!」
「なんだそれ」
「私はオーパーツ!」
「おい変なこと教えんな」
それでは話の趣旨が変わっているだろうと、騒がしい二人を笑いながら眺めているドラコの横に立ったウィリーがその袖を引いた。
「なあドラコ、オーパーツってなんだ?」
「out-of-place artifacts、略してOOPARTS。技術や知識、工法的な問題から、発見された場所や時代にそぐわない出土品などを指す言葉だ」
「ふーん? つまりムー的な?」
「うん、その発言自体がオーパーツだな」
初出:2019-07-30
タマルは朝食の準備を手伝ってるよ。