深い海の底から浮かび上がるように。意識が戻ってくるその瞬間に。
嫌な夢を見ていた気がする。懸命に泳いでいるのにいつまでも岸に辿り着けないような、焦りと不安がない交ぜになった、そんな夢だ。
内容なんて覚えてないし、筋の通ったストーリーなど最初からなかったのだろう。ただただ不快感だけを残して目覚めれば額には脂汗が滲み、胸の上は妙に重かった。
「重い……?」
今は港に停泊中で、けれども船を降りるにはあまりにも眠すぎて。徹夜明けでぼんやりとしたまま適当に並べた木箱に寝転んで仮眠を取っていたはずだ。やけにあたたかいけれど毛布にしては重すぎる、胸の上に乗っかったそれを見てドラコはため息を吐いた。
「何だこれ」
「何って俺らの船長」
いつの間にか横に立っていたダーヴィッツの言葉に「見ればわかる」と答えて起き上がろうとするが、体勢が悪いのかまったく動けない。そんなドラコを枕にして気持ちよさそうに寝ているのは、確かに船長のウィリーだった。
「見てないで助けろダーヴィッツ」
「いや、お前ももう少し寝ておけ。昨夜の嵐で全然寝てないだろ」
「それはお前も……!同じだろ……!」
「がんばるねぇ」
じたばたと暴れる副船長を眺めながら笑った航海士は、じゃあ俺は買い出しに行ってくるからと甲板に上がってしまう。
「ええー……」
立ち去る背中に助けを求めて、伸ばした手をぱたぱたさせるが戻ってくる様子はなかった。人を布団にして、やけに健やかな寝息を立てている船長も全く起きそうにない。
仕方がない、と諦めてそのぼさぼさの頭を撫でて。そうして寝息に誘われるようにして再び眠りに落ちる。
それから夜まで、夢はもう見なかった。
初出:2019-07-29
ゆるふわウィリー海賊団。