リンカネ

天を睨み月に吠える

リンカネイベント無料配布の張遼と曹操。再録本収録。初出:2020.01.19、加筆:2020.04.31  人は業を背負う。 天の龍も、龍の子も関係ない。天下の才も関係ない。 この天の下に生れ落ち、生きることを、戦うことを決めた時…

匈奴の子守唄の話

「ちょ―――せ―――ん」 厚い垂れ幕を捲り、情けない声を出しながら穹廬に入ってきた張遼は明らかに酔っていた。ここ数日、いくらなんでも飲み過ぎだと思っていた貂蝉は相手へ見せつけるように大きなため息を吐く。「お酒はほどほどに、それができないなら…

待ち合わせ

*現パロの張遼と貂蝉。  使われている線が少ないのにやたら位置関係が正確な手書きの地図は、平日の昼過ぎだと言うのにひどく若者が多い駅を出て坂を上がり、明るい陽の中ではひっそりとしている風俗店が建ち並ぶ路地の奥の店を示していた。 ヨ…

とある少年兵のはなし

 格別何か目的があったわけではない。夢や理想や、成したいことがあったわけではなく、ただ、生きるためについていくことを決めた。 六人兄弟の五番目。毎日必死に両親の仕事を手伝ったところで、僅かな食料はいつも奪い合いで。兄達に勝てるはずもなく、か…

丞相と黒猫

 気配を感じて曹操が足下に視線を落とせば、黒く艶やかな毛並みの猫が目を細めこちらを見上げていた。 数日ほど前に、許褚と夏侯淵の二人が拾ってきた三匹の猫のうちの一匹。寄ってたかって構い倒されている他の猫たちとは違い、この黒猫はこうして時々ふら…

軍師

 火を放った船から這々の体で陸地に上がった兵の、そのほとんどが無傷とは呼べない状態だった。そもそも重傷のまま敵兵に囲まれた主君救出のために無茶をした上での、ここまでの行軍である。誰もかれもが満身創痍だ。 それでも中には、比較的まだ元気な者も…

子守唄

「張遼様!」 野営の準備を終えてさあ寝るぞ、という時に出鼻をくじかれる形になった張遼はムッとしたまま顔を上げる。その眼光の鋭さに、まだ年若い兵がヒッと声を上げて後ずさった。「ああ、すまんすまん。どうした?」 どうやら自分が思っている以上に疲…