或る昼下がり
「君は私を恨んでいるか?」 上官の唐突な問いに対して彼よりひとつ年下の参謀は、発言者の予想に反して、少し不思議そうな表情を浮かべて相手を見下ろした。簡素な机に片手で頬杖を突いている小柄な上官は、どこか投げやりな態度に見える。 連日の不毛な作…
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道
「唐津藩、大野右仲」 そう言ってすっと頭を下げたのは、背の高い、ひょろりとした男だった。これから彼と、彼と同じ唐津の者たちが新撰組に入隊する。 彼らだけではない、他にも備中松山や桑名の者が入隊することになっている。戦い続きで戦死者や脱落者を…
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花橘香
その部屋はいつも、わずかに花の香が漂っていた。 どんな季節でも同じ花の香だったから、好き好んだ香木でも燻らせているのだろうと、ただそんなことを思っているだけだった。 地方豪族の生まれとは言え、都一番の学者から教養深く育てられた彼が、季節に…
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帰る日
障子を開くと、朝一番の空気は昨日よりも和らいでいた。 こうして少しずつ寒さが和らいで、厳しい冬は終焉を迎えるのだろう。 ―――ああ、もうすぐ春が訪れる。 この最果ての地に訪れる春は、どのようなものなのだろうか。 そんなことを考えながら、箱…
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