辿り着く答え

刀ミュ/江水。兼さんと大包平と隊長について。2022/5/24


 

 部隊の長としては申し分ない。ただ顕現したばかりでまだ経験が足りない。それだけのこと。
 そのことは本人も十分にわかっているのだろう。だからこそ和泉守に現状に対する不安を打ち明けて、素直にその話を聞く。けれども彼が助言を求めるべき相手は他にいることを和泉守は知っていた。
 彼のまっすぐな性格は対面した相手の言葉を、それがどんなに小さな声であっても誠実に、真摯に受け止める。だからこそ、もう少し慣れさえすれば相性そのものは良いのだろうと思う。
 大包平と、山姥切国広のことだ。
「隊長として悩んでるなら、山姥切に聞いてみな」
「山姥切国広に?」
「うちの本丸において、あいつほど『隊長』という在り方と向き合って考え続けた奴は多分、他にいない。少なくともオレが見てきた中では一番だろうな」
 だけどなぁ、と和泉守が苦笑してみせたのは、大包平が明らかに不安そうな表情を浮かべたからだった。人の身と心を得て顕現したばかりの彼にとって、山姥切との対話はまだ不可解なことが多いのだろう。
「山姥切は本当のことしか言わない。嘘を吐かないし、世辞もおべっかも言わねぇ。ただ、言うべきことではないとあいつ自身が判断した時は何も言わないから、こっちがそれを察する必要があるな」
 冗談もちょっとわかりづらいんだよなぁと和泉守が笑うので、彼らがそれだけ長い時間を共にしてきたのだろうということは大包平にも伝わった。同じものを見聞きして、諦めずに対話を繰り返し。戦うその姿を見続けてきたからこそ、わかることがある。
「今のあんたが『隊長とは何か』を問えば、その答えはポンッと出されるはずだ。あまりにも明快で、もしかしたら意図がわかりにくいかもしれねぇが、別に回答をはぐらかしてるわけでも誤魔化すつもりもねぇ。本当にそれがあいつの出した答えなんだ」
 たぶんな、と。付け加えた言葉は和泉守自身の答えでもあった。
「考えて考えて考え抜いた先で辿り着く答えってのは、案外シンプルなのかもしれねぇなァ」
 だから問いの答えだけを受け取ってもすぐにはわからないのだろう。それでも受け取ることで変わるものがある。そうやって自分自身で考え続けた先で、その答えの本当の意味を知る。
「そういうものか」
「そういうものの方が、あんたにも向いてると思うぜ」
 ここの本丸はだいたいそういう感じかもな、と。目を伏せた和泉守が何を思い出しているのか大包平は知らないが、これから何らかの形で知ることもあるのかもしれない。共に戦う仲間として。

 ――忘れた、と。陸奥守は言った。教えて欲しいと問いかけた質問の答えは、はぐらかすつもりも誤魔化す様子もなく。
 元の主の死に直面した、その一番最初の時。その時に抱いた感情を彼は本当に忘れてしまったのかもしれない。何度も何度も繰り返したその果てに。自分もいつか、そうなる日が来るのだろうかと和泉守は考える。幾度も繰り返す戦いの中で、いつか。
 たとえ忘れてしまったとしても、繰り返す中で掴んだ答え――失い続ける歴史を守る、その理由は確かに残る。陸奥守が教えてくれた答えも、和泉守が辿り着いた答えもきっと、そういうものだった。