則宗×清光。お菓子の小箱。
初出:2020-01-09
「坊主、手土産だ」
遠征から帰って来た一文字則宗にぽんと手渡された小箱を見て、清光はパッと目を輝かせた。
薄紅色をベースに散りばめられた洋風の植物柄の箱に赤く細いリボンが丁寧に巻かれて、その結び目は花のように飾られている。
「好きそうだと思ってな」
「うん。好き」
かわいい、と言って顔をほころばせるので、則宗も満足げに笑った。
「中身は菓子だ。味はわからん。特に有名というわけでもなさそうだったが、箱につられて買ってしまった」
「あるある」
そうやって空き箱とか増えちゃうんだよねと笑いながら、手の中の箱を矯めつ眇めつ眺めていた清光が小さく息を吐いた。
「……見た目にこだわるのって、モノに対するひとつの愛情だと思うんだよね」
だからすごく好きなんだ、と隠し事を明かすような声で言えば、相手は特に肯定も否定もせずにただ「そうか」と頷く。話の先を促しているのだろう。
「たとえばこの飾りリボンの結び方、留め方。全部考えて付けてるわけでしょ。箱の柄だって、幾つもある中からこれを選んで、この色、この素材、この組み合わせで仕立ててる――もちろんこれは商品だからお客さんの手に取ってもらって、欲しいと思ってもらって、買ってもらうための売り手の戦略だし努力だよ」
その時代の流行もあるだろうし、作り手の趣味嗜好もあるだろう。そういうものを全てひっくるめて、誰かが何かを選んだからこそモノはこの姿かたちを与えられた。
「誰かの手に渡るもの、誰かに選んでもらうためのものだから。こだわって飾り立てたいと思うものじゃない? だからこそあんたがこれを見つけて選んでくれて、俺が好きそうだと思ってくれて。今こうして俺の手の中にある」
「なるほど。愛情、だな」
「でしょ?」
そうして積まれたたくさんのモノの中からこの箱を則宗が選び、清光に贈ったことで、この箱だけの物語が生まれた。それはとても些細で、ありきたりで、何てことのない小さな物語だ。それでも二人はこの箱を目にしたり思い出したりした時に、このやりとりについても思いを巡らせることになるだろう。
「俺たちだってモノだった時は、誰かに飾り立ててもらったり、選ばれるのを待つだけだったけど。今は自分自身で選んだり贈ったりできるから不思議だよね」
自分以外の誰かのことを思いながら。
だから好きなんだ、ともう一度言葉にして笑った清光は顔を上げた。
「このあと時間ある? 今日俺、一人なんだ。お茶でも淹れて一緒に食べよう」
小さな箱の小さな物語を増やすために。