共寝

則宗×清光。2021-03-05


 

 

「御前」
 廊下から部屋の中へ、そっと声をかければ衣摺れの音が微かに聞こえてきた。東の空がようやく白み始めた頃合いである。
「日光の坊主か。どうした?」
「主がお呼びです。上から連絡が来たとかで」
「相も変わらず時間を考えない連中だ」
 それとも緊急の案件だろうか。仕方ないなぁ、と言う声と共に足音が小さく続く。
「朝の集まりの前に話しておきたい、というところか。ちょうぎの坊主は……」
「遠征でしょ」
「ああ、そうだった」
 部屋の主とは別の声が聞こえ、しかし日光一文字は動じることなくひんやりと冷たい板敷の廊下に座したまま待っている。
「呼ばれたのは僕だからな。坊主は構わず二度寝を貪って良いぞ」
「歌仙が長義たちと遠征中。ということは俺も呼ばれてると思うけど?」
「その通りで」
 日光と共に当直の当番であった南泉一文字が、彼を呼びにその部屋へと向かっている。
「ほらね。ちょっと、それ俺のベルト」
「うはは。すまんすまん」
 話しながら支度を整えていたのであろう中の二人が出てくるまでに、さほど時間はかからなかった。すうっと障子が開いて、いつも通りの白いスーツを身に纏った一文字則宗がパチンと扇を叩く。
「当直ご苦労、日光の坊主。さて行こうか」
「はいはーい」
 黒い長衣を片手に持った、加州清光がその隣に並ぶ。
 面倒な話じゃないと良いけど、どうだかなぁ、などと話しながら主の部屋へと向かう二人を見送った日光の元に、反対側から足音が近づいて来た。
「日光の兄貴ぃ。清光が部屋にいなかった、にゃ。審神者に報告するにゃ?」
「問題ない。御前と一緒だった」
「じゃあ探さなくても良いのか……一緒?」
 こんな時間に? とでも言いたそうな顔をして、目の前にある御前の部屋の、閉じられた障子をちょっと眺めて。
 にゃあ、とひと鳴きしてそのまま黙った南泉に、察しの良いドラ猫だと思いながら日光は頷いた。
 猫だって好き好んで馬に蹴られたくはない。