休憩所

 背もたれの低い、休憩所のベンチにくたりと身体を預けていると、すとんとその隣に相方が座った。ほい、と手渡された缶コーヒーをゆっくりと受け取れば、相手はじっとこちらの顔を覗き見てくる。
「なんか、今日は朝からダルそうだな」
「そう? ちょっと寝不足だからかもね」
 また遅くまで仕事していたのかよと眉根を寄せた高崎に、ますますシワが寄るよーとその眉間を指先でつついた。
「別に、仕事に支障は出さないよ」
「当然だろ。まあ、無理はすんなよ」
 そう言って、京浜東北に呼ばれた高崎は立ち上がりながら相方の肩を叩く。その背を見送って、宇都宮は小さく溜息を吐いた。
「僕は早く寝たいって、言ったんだけどね」
 独り言のようなその言葉に応えるように、背後から声が返る。
「誘ったのはお前の方じゃないか」
「そうだっけ?」
 答えながら振り返れば、宇都宮が座るベンチと背中合わせになる形で並んでいたベンチに、似たようなオレンジの背中が見えた。
 その後ろ髪の跳ねた先をなんとなく眺めながら宇都宮はゆっくりと手を伸ばす。
「君も寝不足?」
「おかげさまでな」
「でも、君がなかなか寝かせてくれなかったのは本当でしょ?」
「否定はしない」
 こちらを振り返らない相手の背中を、伸ばした指先でついっとなぞる。ビクッと小さく揺れた肩に宇都宮は満足して、声を立てずに笑った。
 指が触れた先にあるのは、昨夜の情事の跡。
「思いっきり爪を立てやがって……」
 言いながらようやく振り返った東海道に、今度は宇都宮が背を向ける。そうして手に持ったままだった、まだあたたかい缶コーヒーのプルタブを開けた。
「オレにも少しくれ」
 伸びてきた手を軽く払って苦いそれを飲み干す。諦めたように息を吐いた相手が、再びこちらに背を向けたことを気配だけで感じながら、そういえばどちらが先に言い出したのだろうかと思い出そうとする。それはあまりにも古く、曖昧な記憶だったのですぐに諦めたが。
 きっかけはきっと、とても些細なもの。

 決して惹かれ合った訳ではないはずなのに、確かに相手を求めている。彼も、自分も。
 かつて本線としての栄華を誇り、そしてそれを奪われた、或いは譲ったもの同士としてなのか。それとも他に理由があるのか。
 言葉少なに指を絡め、上がった吐息を重ねて。
 汗ばむ肌を合わせるだけではいつまでも答えは見つからない。