懐かしい背中

 最後に見たのは、前に進み続けるその背中だった。

「ってのを、思い出しちゃったんだよね」
「あー、わかります。私もやっぱり思い出しましたもん。土方さんの、あの宝具を見た時」
「あら、沖田ちゃんも?」
 意外そうな顔をしながらしかし、きっと彼女も似たようなものだろうと斎藤は確信していた。
「さすがにもう見慣れましたけどね。再会した時の戦いがアレすぎて……もう、なんであそこに斎藤さんいなかったんですか。大変だったんですからね!」
 やや理不尽な沖田の怒りに、そりゃごめんねーと言いながら自分の皿の団子を相手の皿に移してやりながら、ついでに気になっていたことを尋ねる。
「自分が死んだことにも気づかずに戦い続けてたってほんと?」
「本当です。いや、本当の本当のところは私にもわかりませんし、今もまだちょっとその気がある気がしますけど」
 嫌になっちゃいますよね、とお団子を頬張るかつての仲間は、そして今また共に戦う相手となった沖田の顔は、複雑そうだった。きっと自分も似たような顔をしているのだろうと斎藤は茶を啜る。
 彼が戦い続けている限り、新選組はそこにある。彼が言っているとおり。あの時と同じように。
 あの別れの先に今の彼がいる。その身が朽ち果ててもなお魂が戦い続けている。そして彼は叫び続ける。
 誠の旗は不滅だ、ここが新選組だ、と。
「土方さんはきっと、自分がみんなを置いて行ったと思ってるんですよ。過去に残して、背中を向けて。だから今も一人で、前だけを見て戦い続けてる」
「……あの人を戦場に残して、置いて行ったのは俺たちの方なのにな」
 ぽつりとこぼされた斎藤の低い声に同意する代わりに、諦めたようなため息を吐いた沖田は団子の串を皿に戻した。
「そしてサーヴァントである私たちも座に還る時、また土方さん一人を置いて行くことになるんです。あの人だけが、終わっていないから」
 終わりまで共にあることを望んで、叶わなかった。終わりを見ることを拒絶して、離脱を選んだ。その先にあったのがこのサーヴァントという、朧げな存在としての歪で懐かしい邂逅だった。
 別れた時と何も変わらないまま、そのまま一人で戦い続ける彼の背中を再び見つめることは苦しくて、悲しくて、顔を背けたくなる。けれども目を逸らすことはできなかった。
 彼は今も一人で戦い続けている。置いて来た仲間たちがその背後にいると、信じて疑わないまま。
 その懐かしい背中を、今度こそ戦いの最後まで見届けるために。