山城と時雨

艦これ/西村艦隊 2014-05-13


 

「なによ、扶桑お姉さまいないじゃない」
 わざわざこんな場所まで来たのにと、不機嫌を通り越して苛立ちすら感じさせる山城に睨まれて、提督室の椅子に座っていた青年は困ったように眉尻を下げることしかできなかった。
「ずっと探してはいるのだがね」
「さっさと見つけてよ。お姉さまがいらっしゃらないならこんな場所にいる意味がないわ」
「山城、私に対してはそれでも良いけれど、他の娘たちの前でそれを言ってはいけないよ」
 君をずっと待っている娘がいたのだから、と。言い出した提督の言葉が意外だったのか、なにそれ、ときょとんとした山城の後ろで扉が開く。
「ほら、来たよ」
「山城さま!」
 喜色満面といった様子で飛び込んできた小柄な少女を抱き止めて、ああ、と山城は小さく息を吐いた。
 うっかり山城の胸元に顔を埋める形になってしまった少女は慌てて顔を上げて離れようとするが、それを留めるようにぎゅっと抱きしめて山城はその黒髪をそっと撫でる。
「貴女は、時雨ね」
「は、はい!」
「最上に、満潮も」
「お待ちしておりました、山城さま」
「一番待っていたのはそこの時雨ですけどね」
 時雨のあとから部屋に入ってきた二人の顔をそれぞれに見て、それからゆっくりと床に膝を着いた山城は時雨の頬に片手を添えた。
「そうね、長く待たせてしまったわね時雨」
「いいえ! いつか再び皆様にお会いできる日を、ぼくはずっと、ひとりで……」
 待っていた。覚えていた。あの日からずっと。
 きゅっと声を詰まらせてしまった時雨の頬を、山城は優しく撫でる。自分が姉を待ち望んでいるのと同じように、もしかしたらそれ以上に、彼女はずっと待っていたのだろうと思いながら。
「ひとり残してしまって、ごめんね」
「やましろさま……」
 ポロッとひとしずく流れ落ちれば、その流れを止めることなどできなかった。小さな子供のように声を上げて泣き出した少女を、山城は抱きしめる。
「提督、先ほどの言葉は撤回させていただきます」
「そうしてくれると嬉しい。私にとっても、君ははじめての戦艦なのでね」
 ずっと待っていたんだよ、と。不思議と穏やかな気持ちでその声を聞きながら、泣きじゃくる時雨を抱きしめたまま山城はそっと目を閉じた。

 

 

 

2014-05-13:ラバウル初日組なんですけど、最初の十日間くらい空母も戦艦も出ないのに演習相手にはごろごろいて、仕方ないからレベルと火力を上げた重・軽・駆逐艦で戦艦と空母を揃えた演習相手からS勝利をもぎ取っていた日々に突如として降臨(ドロップ)したのが山城でした。去年の八月も終わりの頃の話。
何かその時期に書いたSSが出てきたのでサルベージ。何番煎じかわかりませんけど記念に。