ガタケット182、無料配布。
東北新幹線×宇都宮線。ガタケ前日に新潟行きの新幹線の中で書き上げた数年ぶりのほぐうつ。
初出:2025.11.30
夜明けとともに目覚めれば、隣はもぬけの殻だった。
サイドテーブルに残された書き置きのメモを見て、少し考えて寝直すことにする。早朝のランニングとは殊勝なことだ。東京の官舎では見たことがないから、盛岡の宿舎に泊まった時だけなのかもしれない。
それとも、今日は自分がいるからか。
彼が戻る前に自分がこの部屋を立ち去れば、帰ってきた彼は少し残念そうな顔をして、明日顔を合わせても特に文句を言うこともなくそれで終わりだろう。
だから自分がそうしなかったのは、そうするだろうと思っている相手に軽く腹が立ったからだ。つまり嫌がらせである。
「帰らなかったのか、宇都宮」
「予想外でした?」
「いや、その、」
ランニングウェアのまま狼狽えながら肯定も否定もせず、東北は手にしていた紙袋をそっとサイドテーブルに置いた。
「なんですか、それ」
「近所に出来たばかりのパン屋が、評判が良いのだが、早朝から店を開いていて」
聞きながら紙袋の中を覗き込めば、焼きたてと思しきパンがいくつかと、蓋付きのカップが二つ。芳しいコーヒーの香りが漂っている。
「二人分ですね」
「居てくれたら良い、とは、思っていた」
「へぇ……」
そんな言葉を素直に言うことが出来るようにはなったらしい。
「そういう時は、書き置きに『朝食を買ってくる』くらい残したらどうですか」
「……書いたら、待っていてくれるのか」
「その時の気分次第ですね」
答えながら、紙袋の中身を適当にテーブルへ並べていく。明らかに多い気がするシュガースティックとコーヒーフレッシュまで並べ終えたところで、まあ、と続けた。
「貴方をパシリにするのは気分が良いので」
「パシリ……」
「次は焼きそばパンでも買ってきますか?」
笑って、まだあたたかいパンに齧り付いた宇都宮は美味しい、と目を丸くした。