「ねえ、はじめー」
「なんだ総司」
「土方さんってああ見えてさびしがり屋じゃん?」
突然何を言い出すのだろうかこの男は。
あからさまに嫌そうな顔をして、けれど沖田の部屋で庭を眺めながら飲んでいた斎藤はそのまま立ち去ることも無く、ただ相手の顔を見て黙った。
口調こそいつものように軽いが、横になっている沖田は明りの届かない、薄暗い天井をまっすぐに見上げたまま、彼にしては珍しくどこか思いつめたような表情をしている。
「知らないねそんなこと」
「はい今知った」
「お前のそういうところ強引だよな……」
「いいから聞いてよ」
「聞いてる聞いてる」
答えながら斎藤は自分で持って来た盃に徳利を傾ける。沖田と斎藤の付き合いはそれなりに長いが、酒を飲み交わしたことはほとんどない。互いに気にせず、けれど沖田の枕元には斎藤が持って来たまんじゅうがひとつ。
「だから、土方さんの前では死なないようにしようね」
「……なんだそりゃ」
「先に死なないようにするのは難しいかもなぁって。だってあの人、強いでしょ」
「ぜーんぜーん強くねぇよ」
「じゃあ訂正。強がりで見栄っ張りでしょ」
沈黙は同意の証だ。笑いながらゆっくりと起き上がった沖田は小さなまんじゅうを半分に割って、はい、と片割れを斎藤に差し出した。
「強がりで見栄っ張りで、さびしがりだからさ。俺たちが目の前で死んだらきっとあの人、走れなくなっちゃう」
「……強がりはお前のことだろ」
「じゃあ、はじめは見栄っ張り」
それもお前のことだろうと、言おうとした斎藤は口元にまんじゅうを押し付けられる。
「もちろん立ち止まらない近藤さんがいるから全然大丈夫だけどね! でも戦場では何があるかわからないし、ずっと二人のそばにて、守れたらいいんだけど」
「なんだ総司、ずっと寝てたから気弱になったか」
「うん、ちょっとだけね」
近藤さんや土方さんには内緒だよ、と笑った沖田は、手元に半分残っていたまんじゅうを懐紙の上に戻した。彼はたぶん、それを食べない。斎藤はそれを知っていて、けれどまた同じように懐紙に包んで持ってくる。
二人の声はどんどん小さくなっていく。近藤や土方にばれないように悪戯を企んだ時のように。今の大きくなった新撰組でそんなことはもちろんできないけれど、そんな日も確かにあったのだ。
小さな小さな声で、聞かれてはいけない秘密を。聞かれては困る、二人だけの内緒話を。
「きっと、何かあったら俺は近藤さんを選ぶから」
「俺にあの男を託すな」
「はじめは俺よりずっと強いから、生きていけるから。あの人にさびしい思いをさせない」
「強くねぇよ……見栄っ張りなだけだ」
「じゃあ、俺と一緒で、ね」
同じ意地っ張りの背中を見て、ここまで駆けて来たから。
初出:2018/02/09
かけ隼初日おめでとうございました。
初日の勢いで書いたのでまた変わると思うけど現状こんなイメージの沖田と斎藤の話。