東北本線と加州清光の話

超青の日報2025、無料配布。
青春鉄道×刀剣乱舞クロスオーバー。

初出:2025.05.04


 

*前回のあらすじ:明治末期、刀剣男士が御三家の護衛に来たよ。東海道本線には加州清光、函館本線には笹貫、そして北陸本線には稲葉江が護衛についたんだ。たいへんだね。

 *『鉄路の交差点』『鉄路の交差点-拾遺-

 

 時折感じていた小さな引っ掛かりと、目の前にいる青年に対する違和感が一致した。
 なるほど、と人気のない廊下で東北本線は一人頷く。引っ掛かりは本線の象徴たる刀を受け取ってから感じていた。時期的にも相違がない。
「君が例の、東海道の護衛」
「あれ、よくわかったね」
 目を細めて笑った青年は、それからチラリと相手の腰元、東北本線の刀に視線を向けた。
「やっぱり本線だとわかりやすいのかな」
「刀を持っているから?」
「でも山陽本線は全然気が付いてなかったんだよね」
「あれなら気づかないふりくらいはするんじゃない」
「それもありそうだけど、」
 腕を組んで目を瞑り、うーんと小さく唸りながら青年が首を傾げる。
「俺が気になって見ていたから、かも」
 何を? と東北本線が問い返すよりも先に、知っているとは思うけど、と青年が口火を切った。
「刀ってさ、自分では持ち主を選べないんだよ」
「……まあ、そうだろうね。選ぶのは人間だ」
「俺は作られてから二百年くらいで折れた刀だからそう多くはないけど、それでも俺を手にした『持ち主』はそれなりにたくさんいて。個々の思い入れとかに差が出たとしても、まあだいたいどの持ち主のことも覚えているわけ」
 出だしからなんだって? と聞き返したいと思ったのに、軽い調子で語られるせいで逆に口をはさむことができない。相槌すら求めていない様子の青年は、珍しく口を開くことができないでいる東北本線ではなく『本線の刀』に向かって笑いかけた。
「その刀はさ、別の持ち主のことをちゃんと意識してる。ひとつも忘れてないよ。持ち主である君と同じように」
「それは、」
「だからその手の中にある間くらいは、ちゃんと愛してあげてね」
 刀は自分で主を選ぶことができないから。
 東北本線が、勝手に決められた本線となること以外の道を選べなかったように。
 選ぶのは人間で、自分たちはそれに従うだけだ。それに納得したものも、納得できないものも、思いも意思も関係なく。
「……これは、僕の刀だ」
 だからこそ、彼のものでもあるのだから。
「もちろん大事にするよ」
 いつか手放す、その日まで。

     *

 自分の護衛として来た青年の、その視線の先にあるものに気が付いていたのだろう。
「お前の目からはどう見える」
 東海道本線の問いに、そうだねぇと加州清光は答える。
「大変そうだなって。でも、あと百年もしたらこじれすぎて、一周回って素直に見えそう」
「気の長い話だ」
 小さく息を吐いて、それ以上は何も言わなかった。曲がりなりにも長く己の庇護下に置いていた存在のことだ。その経緯も現状も含めて、他の路線とはまた違う思いがあるのだろうかと清光が考えていると、そういえばと東海道は話の方向を変える。
「戊辰の戦いは北で終わった。武士の、刀の時代の終わりだろう。刀としては、北に向かう路線に思うところもあるのか」
「終わりながら北に向かった、の方が正しいかもね。箱館に辿り着く頃にはすっかり銃撃戦がメインだったから。もちろん刀として思うところはあるけど、」
 とはいえ既に、任務で何度も行っている。目の当たりにして、その歴史を守るために戦ってきている。だから今更だと思う気持ちがある一方で、それでも消えない思いがあった。
「俺も俺の元の主も、北に向かう前に終わったから」
 だからこの視線にはきっと、ほんの少しだけ。選べなかった道の先にある景色への羨望の色が滲んでいる。