それは森の入り口で

羅小黒戦記/開戦の合図


 

 長く長く悩んだ末に動き出した彼を、自分は止めなかった。
 それは彼の考えに賛同したからというよりも、好きにさせてやろうという思いの方が強い。ここまで止めなかったのだからあとはもう最後まで見守るだけだ、と。
「盗んできたこの重機を起点にする。一台しか無いが、人間のものであるとわかれば十分だ。『彼』が来たら怪我をさせない程度に攻撃を続けてこの起点まで誘導しろ。俺が作った穴に落ちたところで『彼』を町に転移させる」
 計画の手筈を再確認する彼の言葉に、その場の全員が静かに頷いた。その顔をひとつひとつ確認して、ゆっくりと息を吸い込む。まっすぐに背を伸ばす。
「虚淮、『彼』を起こしてくれ」
「わかった」
 軽く頷いて、小さな魚のような姿のそれをふわりと飛ばした。生まれたばかりの『彼』は、この森の奥深くで何も知らずに眠っている。
 遠い日に奪われた居場所を奪い返すために、小さな『彼』からそれを奪う。その矛盾を、エゴを、彼はとっくに飲み込んでいる。
 それをここまで止めなかったのは、自分たちだ。