ぴっ、ぴよ、ぴぃ、と高く軽やかな鳴き声が聞こえたのはウィリーの頭上からだった。それに気が付いたドラコがしみじみとした様子で眺めながら頷いて見せる。
「鳥の巣のような頭、って表現はあるけどそれ、本当に鳥の巣だったのか」
「違ぇよ! なんかさっきから聞こえてくるんだよ!」
「わかったわかった。ちょっとしゃがめウィリー……どこで乗っけてきたんだこれ」
そう言ってドラコが両手でそっと取り上げたのは真っ白な小鳥だった。羽を少しばたつかせながらぴぃぴぃと鳴いている。
「そういえばさっき甲板で、頭になんか当たった気がする」
「どう考えてもそれだろ気にしろよ。ああ、こいつ羽を怪我してるな」
手のひらの上でころころと小鳥を転がしたり軽く羽をつまんで見たりしていたドラコの言葉に、俺にも見せて、とウィリーがその手元に顔を寄せる。
「海に落ちなくてよかったなぁ。ドラコ、手当てできる?」
「まあ、簡単になら」
やったことはないができないこともないだろう、と即答したのは、他でもない船長の命令だからだ。
次に寄港する町で小鳥の譲り先を探すことにして、それまではとりあえずドラコが面倒を見ることになった。
ぴぴぴぴぴ、ぴょ、と夜の船室に小鳥の鳴き声が響く。
その鳴き声に合わせて、というよりもドラコの歌声に合わせて小鳥が鳴いているようだ。
「それ、何の歌?」
「なんだったかな。どっかの港で聞いた極東の歌だったと思うけど、最後の方しか覚えてないし」
そもそもこいつカナリアじゃないな、と船長の問いに答えながら副船長が広げた航海日誌の上で、小鳥がちょんちょんと楽しそうに跳ね回っている。
インクをつけたペン先を追いかける小鳥の目の前にウィリーが指を伸ばすと、少し首を傾げてそれを眺め、ぴょんと小さな足で指の上に飛び乗った。
「ずいぶん人慣れしてる。飼われていた鳥だろうな」
「象牙の船に銀の櫂? どこぞの王族サマの船か」
「それだと返すのに苦労しそうだ」
月夜の海に浮かべれば、忘れた歌を思い出す。ペンを走らせながら続けるドラコの歌声に、ぴぃぴぴぴ、と小鳥が小さな胸を張って華を添える。一緒に歌っているつもりなのだろう。
「船の歌い手が増えた、って日誌にちゃんと書いとけよ」
「俺も別に、歌い手ってわけじゃあないんだけどな」
苦笑を浮かべながら、それでも次は何の曲が良いかと船長に聞く。なんか楽しそうなやつ! というウィリーのざっくりとしたリクエストに同意するように、ぴぃと小鳥が高く鳴いた。
初出:2020-02-27 ぷらいべったー